元年10月6日に日本臨床歯科学会 東京支部 ハイジニストミーティングにて、にしだわたる糖尿病内科の西田亙先生のご講演が開催されました。

3時間にわたる内容で、午前中から歯科衛生士の心をばっちりと掴むお話の数々。口腔から全身に配慮できるポイントをわかりやすく教えてくださいました。

この会に参加した歯科衛生士は、仕事に誇りを持て、患者さんに笑顔と納得感を届けられるようになったのではないでしょうか。

今回は、お話いただいた「令和の時代が求める歯科衛生士像~口腔を超えて全身にも配慮できる歯科衛生士~」のレポートをお届けします。

歯科衛生士は日本国民の未来を守る仕事

なぜ看護師さんと呼ばれるのか?
なぜ「唾液を吸う人」なのか?

歯科衛生士と名乗って、正しく歯科衛生士の存在を理解してくれる人は日本ではまだまだ少ないですよね。大抵は上記のような呼ばれ方をしてしまいます。それはなぜなのでしょうか。

お掃除屋さんに留まっている限り、歯科衛生士の存在意義を理解してくれることはありません。お掃除屋さんから抜け出し、「日本国民の未来を守る仕事」になりましょう。

人間のからだのなかで一番赤いところはお口ですよね。なぜ赤いか?血液・血管がたくさん通っているからです。血管を通して全身につながっているので、お口を清めることでからだも健康でいられます。

エビデンスも大事ですが、物語で人の心は動きます。今までのやり方を続けていたのでは、今の状態のまま変わりません。20代・30代である若い世代の人がこれからの未来を変えていく必要があります。

だからお口の中に留まっていてはいけないのです!
ちょこっと小話:学問は蜜のように甘い
ユダヤ人の胎教は「学ぶ」。学校は妊婦で溢れています。子どもよりも母親を教育し、母親の考え方が子どもに伝染していく。ユダヤ人は女性が学ぶことに努力を惜しまないそうです。
(胎教とは…一般に妊婦が精神の安定に努めて、胎児によい影響を与えようとすること)

歯科が誇るべきところは「連続性」

医科での受診は内科、婦人科、外科、小児科など断絶して診ていきます。しかし唯一、歯科だけは下記のように繋がりがあります。

・対象は乳幼児から高齢者まで
・継承による世代を超えた診療
・幼少期から人生の最期まで
・万が一のときは遺族の元へ

歯科は小さいお子さんからご高齢の方まで長期に渡って診ていくことができます。また世代を超えて受け継がれている医院が多く、ご両親から継承された知識や患者さんの補綴物も受け継がれていきます。

さらに震災など万が一のときも歯の治療状況をもって遺族の元へ帰してくれるのは歯医者さんです。死してなお繋がることができるのです。このように歯科は連続性があると言えます。

骨太の方針2019には下記のことが明記されています。

骨太の方針2019
「口腔の健康は全身の健康にもつながることからエビデンスの信頼性を向上させつつ、国民への適切な情報提供、生涯を通じた歯科健診、フレイル対策にもつながる歯科医師、歯科衛生士による口腔健康管理など歯科口腔保健の充実、入院患者等への口腔機能管理などの医科歯科連携に加え、介護、障害福祉関係機関との連携を含む歯科保健医療提供体制の構築に取り組む。」

看護師や管理栄養士は登場しないのですが、歯科衛生士は出てきます。それは歯科衛生士は予防に関わることができるから。令和の歯科界に求められるものは「医科にはない視点から口腔と全身の連続性を社会に発信していくこと」です。

健口から健幸へ促せる歯科衛生士に

糖尿病の患者さんはやわらかいものが好きです。うどん、菓子パン、フルーツ、アイス、ケーキなどなど…やわらかいものは血糖値を上げます。歯ごたえのあるものは上がりにくいのです。なるべく多く噛むような食事を促す必要があります。

しかし、患者さんもやわらかいものを選んで食べている理由があります。もしかしたら「噛める歯がない」「入れ歯が合わない」などを理由に咀嚼ができないのかもしれません。咬合と偏食は関係が深いです。

こういったことに目を向けると患者さんとの関わり方が違ってきますよね。お口を改善させるだけで食生活が変わる。そしてそれが栄養としてからだに身につきます。栄養がとれると筋肉がついて運動ができるようになり、さらに便通までよくなる。お口がきれいになると全身が健康になります。

お口の手入れは命の分かれ目。歯科衛生士が患者さんに寄り添うことで、お口から全身への健康を促すことができるのです。

その際には「伝える」から「伝わる」情報提供をするのがポイントです。アインシュタインはこのようなことを言っています。

アインシュタインの教え
教育事業を救うの道はただ一語で「もっと眼に浮かぶようにする」という事である。出来る限りは知識が体験がにならねばならない。

患者さんに伝えるときには「眼に浮かぶ物語」をすると伝わる話になります。

口腔内写真を撮ってお見せしても、除去したあとまで記録する人は少ないのではないでしょうか。歯石の下の歯肉にはどれだけの炎症が起こっていたのかまでしっかりお見せするとイメージしやすくなります。

メインテナンスをしていると人間ですから、浮き沈みがあります。もし後戻りしていたとしても、写真で記録していれば「はじめはこういう状態だったからそのときよりは悪くないですよ。また歯磨き頑張れば健康な状態を維持できますから一緒に頑張りましょう。」と伝えることができます。

西田先生流かわいい伝え方🎵
「晩御飯が遅いと糖尿病になりやすいので、1時間でも早く食べられるようにしてみてください。晩御飯を食べたらお口をピカピカにして朝までお口チャックです(手を添えながら)!一度磨いたら食べたくなくなりますよね。夜食がなくなったら自然と健康的な食生活を送れますよ。また、歯に悪い食べ物はからだにも悪いので気をつけてくださいね。」

「歯周病」が全身疾患と繋がりが深いワケ

これから歯科に求められるのは「全身に配慮し、医科と共に治療に臨むこと」です。

そこで、EuroPerio9でEFP-AAP共同で歯周病の分類が改定されました。

歯周病の病気分類・等級分類
ステージ分類:現在のこと(重症度・範囲・複雑性)
グレード分類:今後の物差し(将来のリスク・全身との関わり)

欧米の歯周病学会は糖尿病などの全身疾患に着目しました。理由は、年4回以上の歯科医院への通院で糖尿病の医療費と入院回数が減るからです。

34万人を対象にして、歯周病と診断された人に1年後どうなったのか調査しました。また、歯科医院に通院した人を年1~3回と年4回以上で分けました。すると、糖尿病に関しては年4回通院した人のほうが医療費と入院回数が4割も減りました


年1~3回ではなく、年4回以上は必要だと言えます。

歯周治療は炎症消退を通して全身の健康に寄与する

炎症の有無を診断するためにCRPという検査があります。

CRP検査の基準値
正常値0.02mg/dl
歯周炎0.3mg/dl
肥満1mg/dl
感冒5mg/dl
肺炎10mg/dl

適切な歯周基本治療はCRPを0.13mg/dl低下させます。歯科衛生士が関わることで炎症を抑えることができるのです。CRPが0.1mg以上で心筋梗塞および糖尿病の発症リスクは3倍以上となります。歯周基本治療により心筋梗塞および糖尿病の発症リスクが3分の1になるかもしれません。

それではCRPは何が原因で増えてしまうのでしょうか。15歳集団のCRPに影響を与える因子は下記の通りでした。

ドイツの出生後コホート研究に学ぶ歯肉炎の恐ろしさ
①喫煙
②肥満
③歯肉炎

歯肉炎を甘く見てはいけないことがわかります。歯肉に炎症があるだけで未来に影響がでてきてしまうのです。

妊娠糖尿病になる基準値は通常よりも低い

糖尿病の診断基準は、空腹時血糖126mg/dl以上です。しかし、妊娠糖尿病の場合は空腹時血糖 92mg/dl以上。歯肉が腫れているだけで簡単にこの数値になります。10人に1人が妊娠糖尿病です。

これだけ低い基準値なのは、赤ちゃんと母体に大きな負担がかかるから。このことを歯科から妊婦に伝えていくと多くの命を救うことができます。口腔感染制御は生まれくる命をも救うのです!

歯科関係者必読の症例報告:口腔子宮感染により出産直前に絶命した胎児
35歳のアジア人女性が39週5日で死産した。母親は妊娠関連歯肉炎で出血、死産3日前に上気道感染で発熱がみられた。血性の羊水と胎児は猛烈な悪臭を放っていた。激しい絨毛羊膜炎・肺炎などが確認でき、絨毛・羊膜・胎児の肺と胃にはF.n菌が埋め尽くされていた。F.n菌は全身に飛んで悪さをする。

それではそのF.n菌はどこからやってくるのでしょうか?

①膣
②肛門
③縁上プラーク
④縁下プラーク

この4つを調べたものの、上記3つにはおらず、縁下プラークのみF.n菌が存在していました。羊水内細菌を認めた妊婦は全員が早産。その3割にF.n菌がいたそうです。

胎盤の細菌叢は口腔と最も似ていると言われています。だから歯科通院が重要なのです。

年4回以上の歯科通院は出産時の追加医療費を4分の1に抑えるので、妊婦さんには特に定期検診を促していきましょう。

詳しいことはこちらの本をご参照ください。
内科医から伝えたい歯科医院に知ってほしい糖尿病のこと その2

日本糖尿病学会に学ぶ歯周病への向き合い方

糖尿病治療ガイドに「治癒」という言葉は一度しか出てきません。唯一出てくる場所は「糖尿病は治癒する病気ではないので決して通院を中断しないよう指導する」です。

糖尿病の未治療と治療中断が社会問題化されています。20、30、40代で糖尿病といわれても病院に行ってもいない、行っても中断してしまう人が相次いでいます。

同じことが歯周病でも起きていますよね。定期通院していたら介入ができますが、来なかったらどうしようもありません。

通院中断こそ最大の悪
通院継続こそ最高の善

糖尿病も歯周病も不治の病です。「日本国民に対して歯周病は治らない。だから生涯通院が必要!」と伝えていきましょう。

西田先生オススメの書籍【糖尿病治療ガイド 2018-2019

患者さんの喜びは自分の倖せ

歯科受診の恐れが口腔崩壊をもたらします。歯科受診が恐れられる原因のひとつはマスクにあるのではないでしょうか。マスクを外してしっかりとコミュニケーションをとっていく必要があります。

患者さんとのコミュニケーションで悩んでいる人がいたらこちらをご参照ください。
デンタルインタビュー入門 医療面接で生まれ変わる歯科外来

西田先生の生講義動画も付いており、『体験編』のロールプレイングではスタッフ同士で実践することができます。院内勉強会に使ってみてはいかがでしょうか。

医療はサイエンスとサービスです。サイエンスでは本物の知識と技術を提供し、サービスでは共感・賞賛・勇気づけを行います。

サイエンス
・診断
・治療
・予防
サービス:医療面接
・共感
・賞賛
・勇気づけ

恐れを喜びに変え、生涯に渡り通い続けてくれるためには医療面接が重要な役割を果たします。医療面接は患者とスタッフ双方が幸せにいたるための学問です。

幸せは連鎖していきます。歯科医院で嬉しいことがあれば患者さんもスタッフもお家に帰ってからそのことについて話し、どんどん伝染していきます。

「患者さんのために」から「患者さんの幸せが自分の幸せ」
自分も周りも幸せになれる歯科衛生士になりましょう。

編集後記

歯科衛生士の仕事のやりがいを見つけ、具体的にどのように患者さんと接していき、その先には何が待っているのか。今日からの仕事や人生に対する向き合い方を改めて考えさせられる一日となりました。

歯科衛生士・本吉ひとみ